2018/03/30
名付け親ストーリー
【深山田の家】オープンハウス開催まで一週間となりました。
さてこのおうち、《ゆたかな自然を楽しむ見晴らしロケーションハウス》に加え《ちいさなお菓子店を内包した店舗併用住宅》でもあります。クライアント(奥様)長年の夢だった、ちいさなケーキ屋さんを住まい新築と共に叶える計画で設計は始まりました。
自宅でちいさなケーキ屋さん、一見たやすく思えて実現するのは至難の業。保健所への営業許可届が大前提で、そのカテゴリーは「菓子製造業」と飲食店の営業許可よりハードルが高いのです。
具体的な要件は割愛しますが、それなりの設備と営業条件に合法した店舗形態である必要があり、自宅のキッチンで趣味の菓子づくりの延長でお店展開♪なんて甘いものではなかったのです。
「自宅で子育ての傍ら、ちいさなケーキ屋さんを営みたい」
可能ならば、と言葉を足しておずおずと説明される若奥様を前に、失礼ながら砂糖菓子のように淡い夢だと感じていました。実現する・させる、までは至っていない淡い夢のひとつであろうと。
しかし何度も打合せを重ねる毎に、その夢は熱を帯びてきました。
住まいづくりが大前提で、でも理想の「ちいさなケーキ屋さん」を叶えるために取捨選択してゆく若奥様に、いつしか私は感情移入してゆきました。
予算が無いから狭いスペース・最小限の設備投資ではなく、限られた条件で上質なケーキを作り、提供したい。材料や過程を大事に大人も子供も喜ぶケーキをかたちにし、喜ぶ顔が見たい。
それは日頃から私たちが建築に向かうスタンスと何ら変わることなく。若奥様の夢をあたたかく見守るご主人と同じく、いつしか私達もその姿を見たいと思うようになりました。
「1.5畳強の製造場」
保健所の初回打合せで窓口職員の方は「狭すぎる」と目を白黒させていました。そしてあらゆる角度から質疑されました。当然です。私が保健所職員なら同じ見方をします。
限られたスペースで、きちんとした設備を設置し、保健衛生上合法の営業を行う。これらを理解いただき、納得していただけるまで何度も足を運び、検査を受け晴れて営業許可を頂けた時は若奥様と抱き合い喜びました。もはや同志ですね。
「名付け親」
そんな営業許可対応の3ヶ月前、お店の名前は決まりましたか?と気軽に尋ねた私に若奥様は半泣きで答えました。実は決まっていたのですが・・・(泣)と。
聞けば振袖詐欺で大騒ぎとなった○○ノヒと同じ名前で仮決定していたとのこと。その後一連の騒動をニュースで知り、散々悩んだ名づけが振り出しに戻っていたのでした。
憔悴する彼女を前に、つい「私も考えてみます」
通常であれば依頼されてからのブランディングですのに、情にほだされてしまいました。
数点考えたのち彼女へプレゼンした名前は、喜びのリアクションと共に採用いただきました。公開は後日。
建物引渡し後、数か月してオープンするであろうお店の名付け親は私です。それだけでもう大満足!